脱毛症の治療

精神的な疲れが腎の働きを弱める

東洋医学では髪は「腎」の働きと関係があると考えられています。腎は生命力、成長、骨、髪、歯などと深い関わりがあり、その働きが正常であれば、生命力に満ちて骨も歯も丈夫、髪も艶よく伸びもいいということになります。一方、腎の力が不足すると、疲労感を始めとして歯の異常、骨がもろくなる、白髪、脱毛などの症状が現れやすくなります。

腎の力を損なう理由は過労や加齢などさまざまですが、精神的な疲れが腎を弱めることもあります。「考えすぎて眠れない」「頭がのぼせる」「足が冷えるなど」も腎虚でよく見られる症状です。このような症状を伴う脱毛症は、養毛剤だけでは発毛に結びつかないと考えます。

60代女性の症例

最初は2年前に、美容院で「円形脱毛がありますよ」と指摘されたそうです。すぐに治るかと思い治療せずにいたが、なかなか良くならず、脱毛部は最初の1カ所から次第に増え続け、治療院にみえたときには大小6つの円形脱毛がありました。

健康には自信があるとおっしゃっていましたが、同居しているお孫さんの登校拒否に悩み、精神的には疲れていました(これが腎の働きを弱めることに繋がったと思われます)。いろいろ考えすぎたためか、頭に熱がこもり、のぼせた状態でした。このような脱毛症は養毛剤だけではなかなか発毛にはいたりません。

この場合、のぼせを取ることが治療の要点です。腎の気を補うツボを使い、脱毛部には直接灸をすえます。のぼせを取るために足の三陰交や失眠にも灸をすえました。週1回の治療を14回行った段階で全体の8割は発毛しました。

まだ完全ではありませんが、「もう治らないと思ったから暑くても長い間髪を伸ばしていた」というところから「これでやっとカットできる!」というところまで見通しがつきました。いつもかぶっていた帽子を脱いで、頭を自然の風に解放している状態です。

鍼灸治療では、脱毛部には血行を改善させる目的で鍼灸をしますが、大事なことは、頭部だけでなく腎の気を補うために全身のツボを使い、のぼせや冷えを改善して身体全体のバランスを整えることです。